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第2回 増加する逆流性食道炎 - 船津 和夫 -


食生活の欧米化、高齢者・肥満の増加に伴い逆流性食道炎は増加の一途をたどっています。逆流性食道炎は胃内視鏡検査で食道下部に炎症所見がみられますが、近年、逆流性食道炎と同じ症状がありながら、食道に全く炎症所見のない病気があることがしばしば見られることがわかってきました。この病気は非びらん性胃食道逆流症(non-erosive reflux disease: NERD)と呼ばれます。逆流性食道炎とNERDを合わせて胃食道逆流症と呼ばれます。ここでは、逆流性食道炎とNERDの違いと予防・治療法についてお話しします。

1. 食道の働き

まず、逆流性食道炎の発生部位である食道の働きについて述べます。食道は口と胃を結ぶ細い管で、約25㎝の長さですが、口唇から胃の入り口までは約40㎝あります。食道は食べ物を口から胃へ送る単なる管ではなく、食べ物が入ると収縮と拡張を繰り返しながら胃の方へ移動させます。これは食道の壁に筋肉があり、食べ物が食道に入ると収縮と拡張を繰り返すためです。このため寝たままでも食事をすることができるわけです。食道と胃の境目の筋肉は特に発達していて、胃に入った食べ物が食道に戻らないようになっています。しかし、高齢になるとこの筋肉がたるんできて、胃と食道の通過性がよくなります。また、胃と食道の境は横隔膜の高さにありますが、高齢になると胃が横隔膜を越えて上方へ引っ張られることがよくあり、食道裂孔ヘルニアと呼ばれます。食道裂孔ヘルニアでは胃と食道の境はやはりゆるんでいます。

2. 高齢者に多い逆流性食道炎

①逆流性食道炎とは?

胃と食道の境がゆるんでいると、胃液が食道に戻りやすくなります。健康な人でも食後には胃液が食道に戻ることはありますが、健康人ではたとえ胃液が食道に逆流しても食道の動きにより速やかに胃に戻ります。しかし、高齢者では胃と食道の境の筋肉のたるみや食道裂孔ヘルニアがあることが多く、胃内容が食道に戻りやすい上に、食道の運動が低下しているため、食道に逆流した胃内容がすぐに胃に戻らないことが起こります。また、逆流性食道炎の人には肥満者が多く、内臓脂肪による腹圧の上昇が胃液の逆流を助長しています。胃液には胃酸や時には十二指腸から胃に逆流した胆汁、膵液が含まれています。このため、食道に逆流した胃液により食道の粘膜が荒れて食道炎を起こします。これを逆流性食道炎と呼びます。

②逆流性食道炎の症状

逆流性食道炎の代表的症状として胸やけがあります。これは、食後2時間ぐらいすると、酸っぱい胃液がお腹から口の方へ上がってきて、症状が続くと食べ物が胸につかえることが起きます。胸やけはお酒を飲んだり、甘いものや油っこいものを多くとったり、からしなどの香辛料をとったあとに起こりやすくなります。胸やけで夜間眼が覚めることもあり、胸部の灼熱感、あるいは症状が強いと胸痛として感じられ、時には狭心症などの心臓の痛みと間違われることもあります。しかし、胸やけは起きあがって上半身を立てると軽くなり、さらに水を飲むと消えてしまう特徴があります。これは食道に逆流した胃液が起立したり、水を飲むことにより食道から胃の方へ送られ、胃液による食道粘膜への刺激がなくなるためです。
このほかの逆流性食道炎と関連ある症状としては咳、痰、しわがれ声、喘息発作、歯痛があります。いずれも胃液の口腔内への逆流が主な原因となっており、最近注目されているのが喘息発作との関連です。つまり、無意識のうちに気管内に誤嚥された胃液による気管支粘膜への刺激という直接作用と胃酸により刺激された食道粘膜の神経反射を介した気管支の攣縮という間接作用が喘息の発生に関係していることがわかってきました。このような場合、胃薬により逆流性食道炎の治療をすると喘息発作が軽快することがあります。さらに、人口の高齢化に伴う逆流性食道炎の増加により今後増加すると予想されている病気に食道腺癌があります。

③逆流性食道炎の診断

逆流性食道炎の診断には胃内視鏡検査が行われ、粘膜障害の程度により重症度がわかります。食道癌の早期発見にも胃内視鏡検査は有効です。

④逆流性食道炎の予防と治療

逆流性食道炎の日常生活上の注意点を下記に示します。
【逆流性食道炎の日常生活の注意点】
1. 食事 食後すぐ横になることや就寝直前の食事の摂取は避けてください。
食後2時間は上半身を起こした体位を保ってください。
2. 体位 腹圧が上がる重量物の持ち上げ、前屈位の姿勢、怒責を伴う作業は避けてください。
就寝中は上半身を軽く挙上した状態で寝てください。
3. 肥満 内臓脂肪により腹圧が上がるので、体重を減らしてください。
4. 嗜好品 過食をしないで、高脂肪あるいは甘みや酸味の強い食品や香辛料を控えてください。
酒、タバコやコーヒー、緑茶、チョコレートも控えてください。
5. 衣服 腹部を圧迫するコルセット、ガードル、帯、ベルトは着用しないでください。
6. 便通 便秘にならないように気をつけてください。
逆流性食道炎の治療には、胃酸を強力に抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)が使用され、きわめて有効性が高いです。また、制酸薬や粘膜保護剤、消化管運動機能改善剤が併用されることがあります。内服により症状が改善せず、日常生活に支障をきたす場合には、内視鏡手術を含めた外科的治療が必要になる場合があります。

3. NERDとは

胸やけ、ゲップ、前胸部の灼熱感などの逆流性食道炎に比較的特徴的な症状がありながら内視鏡検査で食道下部に異常が見つからない場合がしばしばあります。これはNERDと呼ばれ、逆流性食道炎とは別の病態と考えられています。NERDの原因については、食道粘膜の過敏性、食道上部の知覚過敏帯への胃液刺激などが想定されていますが、特定されていません。NERDは逆流性食道炎に比べ、若い女性で、比較的やせ気味の人に多くみられ、食道裂孔ヘルニアもあまり合併しません。当健診センターの受診者を対象とした逆流性食道炎とNERDのメタボリックシンドローム合併率をみても、逆流性食道炎にはメタボリックシンドロームの合併が多いのに対し、NERDでは健常者よりその合併率が低く、両者は別の病態であると思われます(図)。ただし、NERDの人は健常者に比べ、逆流性食道炎に移行しやすいことが知られています。
NERDは胃酸以外に十二指腸液、胆汁、胃内ガスなどにより症状を来すことがあり、逆流性食道炎に比べPPIが効きにくいことが知られています。NERDでは逆流性食道炎に使われる薬以外に、膵酵素を阻害する薬剤、抗うつ剤が有効な場合があります。

三越総合健診センターを受診し、胃内視鏡検査を受けた659名(男性368名、女性291名)について、逆流性食道炎、NERDの人と健常者のメタボリックシンドローム合併率を比較しました。逆流性食道炎では健常者、NERDに比べ、メタボリックシンドロームの合併が圧倒的に多く見られます。
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