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第4回 糖尿病の治療を考える - 小原 啓子 -


糖尿病の治療はなぜ必要なのでしょうか?

糖尿病の患者さんは、血糖が上がることで全身のいろいろな合併症を生じます。主な合併症として、糖尿病の三大合併症である糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害があります。糖尿病を患ってからの期間が長くなり、血糖コントロールが不十分な状態が続くと次第に生じます。これらは小さな血管の障害で、糖尿病特有の障害ですが、大きな血管の障害として動脈硬化が原因である心筋梗塞や脳梗塞があります。糖尿病がなくても高血圧、高脂血症の患者さんにも生じますが、糖尿病の患者さんは糖尿病がない人と比べ、より起こり易くなります。糖尿病治療の目的は、血糖コントロールを行うことによってこれらの合併症を抑えることです。

合併症予防のためには、糖尿病の早期診断・治療が必要ですが、血糖が上昇してもすぐには症状が出ません。しかも糖尿病患者さんの大部分を占める2型糖尿病では、糖尿病の初期には空腹時血糖はあまり上昇せず、食後血糖の上昇が中心です。そのため糖尿病が疑われたら糖負荷試験という、ブドウ糖を飲んで30分、60分、120分と血糖を測る検査を行う場合もあります。(図1)

図1.ブドウ糖負荷試験による糖尿病の診断

糖尿病の診断・治療の指標として、赤血球のヘモグロビンに糖が付いた割合(%)を現わすHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)を測定し、食後血糖も含めた1-2ヵ月間の血糖の「平均値」と考えて使っています。また血糖コントロール目標値は、患者さんの状態によって個別に考えます。日本糖尿病学会では、血糖正常化を目指す《HbA1c6%未満》、合併症予防のための《HbA1c7%未満》、そして低血糖などで治療強化が困難な場合の《HbA1c8%未満》としています。年齢、罹病期間、臓器障害、低血糖、サポート体制などを考慮して設定します。血糖正常化を目指す《HbA1c6%未満》は、食事療法・運動療法のみ、あるいは薬物療法中でも低血糖がなく達成可能な患者さん、低血糖が生じる可能性のある内服薬やインスリン注射などの薬物療法中の患者さんは、合併症予防のための《HbA1c7%未満》を目標とします。(図2)

図2.血糖コントロール目標

① 良好なコントロールとは?

HbA1cは同じ6.5%(JDS)でも、上は平坦で日内変動が少なく、良い血糖コントロール、下は食後高血糖が著しく夜間低血糖があり血糖変動が大きく、日によって血糖値が大きく違います。良い血糖コントロールとはHbA1cだけでなく、血糖変動が小さく、高血糖・低血糖のない平坦な血糖コントロールです。そのためには薬物療法だけでなく、バランスのとれた食事療法と適度の運動療法が大事です。(図3)

図3.HbA1c値が同じでも、血糖コントロールは大きく異なる

② 糖尿病は早期に治療することによって、その後の様々な合併症の予防が可能!

糖尿病は早期に治療することによって、その後の様々な合併症の予防が可能で、そのためには早期診断が重要です。HbA1c6.5%以上が糖尿病の診断基準ですが、6.0%を超えると糖尿病の可能性が高くなります。心筋梗塞や狭心症など、動脈硬化のある患者さんは耐糖能異常・糖尿病の合併が多く、再発予防のためにも糖負荷試験を行い診断することが勧められます。(図4)

図4. 正常型、境界型、糖尿病型のHbA1cの分布

③ 血糖コントロールのLegacy Effect(遺産効果)

英国のUKPDSという研究では、血糖コントロールを強化した人達は、従来治療の人達より網膜症などの合併症が少なくなったのですが、心筋梗塞、脳卒中は差がありませんでした。しかし研究が終了した10年後、HbA1cは差がなくなりましたが、強化治療では、従来治療より心筋梗塞、脳梗塞とも発症が少なかったのです。これは血糖コントロールのLegacy Effect(遺産効果)とよばれ、早期の血糖コントロールが重要であることを示しています。

④ 重症低血糖では心血管病が増える!

血糖コントロールが難しい理由の一つは、治療による低血糖です。SU薬やインスリンによる厳格な血糖コントロールは重症低血糖が多く、低血糖によって心血管病が増えると言われています。そのため低血糖をおこしにくい薬の選択が必要です。しかし糖尿病の進行とともにSU薬やインスリンが必要となる場合があります。自覚症状がなくても低血糖の可能性があり、症例によっては治療の目標値を少し緩やかな7.0%とした方がいいとされています。

⑤ メタボリック症候群の合併で大血管症が5倍!

糖尿病は、糖尿病になりやすい遺伝や体質に、肥満や運動不足など環境要因が加わって発症します。一方、メタボリック症候群は、腹部肥満、つまり内臓脂肪が原因で血糖上昇、血圧上昇、中性脂肪の上昇が生じる状態です。糖尿病の患者さんにメタボリック症候群が合併すると注意が必要で、九州大学の久山町研究によると、糖尿病とメタボリック症候群の合併で心血管病の危険度を増加します。糖尿病のみの場合、どちらもない場合と比べ脳梗塞の危険度は1.3倍、虚血性心疾患は1.2倍に増えましたが、糖尿病とメタボリック症候群が合併すると脳梗塞は4.7倍、虚血性心疾患は4.6倍と著しく増えました。(図5)

図5. 糖尿病とメタボリック症候群が合併すると心血管病が増える

血糖コントロールの重要性について述べました。また、合併症予防のためには血糖のみでなく、血圧、脂質、体重などのコントロール、禁煙も必要です。糖尿病の治療は個々の患者さんで個別に考えていく必要があります。糖尿病の治療でわからないことがありましたら、いつでも御相談下さい。

2015年10月 小原啓子
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